LUNKHEAD曲解説ブログ,  青に染まる白

泡沫 おだか

泡沫とみゆきは
青に染まる白の中で一番最後に出来た2曲だった。
(今思えば両極端な曲だなあ…)
で、なんと…!!
レコーディングまでに1回しかスタジオに入る時間がなかった…!!
しかもその1回が
ツアー中の移動日で前乗りした新居浜だったのだ…!!
(帰ってすぐレコーディングだった…!!)
新居浜ジャンドールはリハーサルスタジオもあるので
そこで、のつもりだったのだけど
ジャンドールの店長伊藤さんの計らいで
前日にもうステージに機材搬入しちゃって
ステージ使ってもらって構わない、みたいなことになり
ライブのセッティングでアレンジを詰めていくという謎の事態に…
ていうか、なんであんなタイトなスケジュールになっちゃったんだろうか。
もちろん1回こっきりで曲が詰められるはずもなく
みんな曲の全体像がモヤっとしたままその日は終了。
なんなら山下君はこの時毛ほどもギターリフを思いついていなかった。
そして一抹の不安を残したままレコーディングを迎えることに。

クロスロードスタジオはブースがないので
全員でせーのでガイドを録って
(俺、壮、悟はライン録音)
それを聴きながら桜井さんのドラムを録り
悟のベースを録り
俺のリズムギターを録り
場合によっては(てか最近ほぼこのパターンだけど)
俺の歌を録ってから山下君のギターを録る。
なので、桜井さんも悟も俺も
どんなギターリフが乗っかってくるのかもわからないまま
レコーディングが進んでいった。
そしていよいよ山下君の出番。
鳴り響いたのは炸裂する凶悪なあのギターリフ!!
というか
全体的に全員のアンサンブルが
え?これ、たった1回スタジオ入っただけなの?
というくらい強靭で
ゾワッと我ながら鳥肌が立った。
まさに窮すれば通ずというか。

だけどこれがいつもうまくいくはずがなくて
泡沫が勝った理由は幾つかある。

ひとつめに
俺の中で曲のコンセプトが明確だったこと。
歌詞も書けてたし
俺のやりたいこと
こんな曲にしたい、という意思が
メンバーにはっきりと伝わっていて
それをちゃんとメンバー間で共有できていたこと。
なので俺のパートと曲の構成はかっちり出来上がっていたこと。

ふたつめに
桜井さんもクロスロードスタジオでのレコーディングが初めてで
井上さんも桜井さんのドラムを録るのが初めてだったので
アルバムレコーディング序盤はドラムの音作りに結構難儀していたのが
最後のレコーディングだったので
桜井さんもクロスロードスタジオでのドラムのチューニングがわかってきたことと
井上さんも桜井さんのドラムのマイキングやセッティングがわかってきたこと
なので、二人の呼応がハマって
泡沫はドラムの音(特にスネア)がめちゃくちゃリッチに録れてて
曲の破滅的な世界観にドンズバでハマっている。

みっつめに
これは完全にイレギュラーなマジックなんだけど
悟がベースになんかファズっぽい歪みのペダルを使っていたんだけど
めちゃくちゃ極悪な音でめちゃくちゃカッコよかったんだけど
井上さんのパソコンの画面を見ると
見たことない、というか
こんな波形あり得るの?っていう波形がそこにはあった。
音の波形って
上にも下にも普通ギザギザじゃないですか?
そんなもの見たことない人にもなんとなくイメージできると思うんです。
たとえば今、お手元のiPhoneのボイスメモで録音してみたとすると
上にも下にもギザギザな波形が目に見て取れると思います。
が!しかし!
この時の悟のベースの波形は
下にはギザギザなんだけど
謎に上は真っ平ら。
言ってみたら生ワカメが干されているような波形です。
こんな波形見たことない!!
っていうか、これは一体どういうこと!??
どういう理屈でこうなってんだ??
でもめちゃくちゃかっこいい!!
というわけでそのまま録り進めていっちゃったんだけど
どうもその悟のペダルが壊れてたらしくて
(なぜか壊れる寸前が一番いい音がするって昨日山下君が言ってた)
その後、あれどうしたの?って聞いたら
捨てたって。
もったいねー!!
でもおかげでめちゃくちゃすごいベースが録れました。

よっつめは
それを総括してなんだけど
こねくりまわすより瞬発力が勝った
という感じがする。
入念にスタジオに入ってたらもっと欲が出て
こじんまりしていたかもしれない。
清水の舞台じゃないけど
南無三!!みたいな感じが
この曲の暴力的な感じに合っていたのだと思う。

泡沫はサウンドもカッコいいけど
前述の通り
やっぱり歌詞がキモだったのかな?と思う。
歌詞が書けてたからみんな曲の全貌を共有しやすかったのかもしれない。
これは当時いろんなところで言ったけど
俺は山本文緒さんや江國香織さんや角田光代さんや
女性作家の小説を読むと
本当に男とはチンカスで
女性はおっかない…
と、奈落に突き落とされたような気持ちになる。
すべてを捨てて泥沼まで道連れになる覚悟があるのに
最後の最後で見限った瞬間スッパリと切り捨てる、みたいな
恐ろしや…というか
そういう、ちょっと男には到底わからないような
怖いもの見たさもあって読むところが少なからずある。
で、当時山本文緒さんばかり読んでて
(そしてなんとこれがご縁でなんでだか
山本文緒さんにインスタをフォローしてもらってる…
あの顔に見える写真をあげるたびにすぐいいねしてくれる…
人生何があるかわからん…)
それで自分なりに思うことがあって歌詞を書いて
泡沫や、木曜日もそうだけど
女性目線の曲は
俺にとって
俺の中での女性像というか
妄想でしかないのだけど

騙すなら最後までちゃんと騙して
そうしたら幸せなまま死ねるでしょ?

って頭の歌詞が
書いてて自分でゾッとしたんだけど
もう騙されてることもわかってるんだけど
騙されてるフリしてやってるんですよね。
チンコでしか考えられないアホバレバレな男に。
そんなやつを何でそんなに好きになるかなと思うけど
それも理屈じゃないっていうか。

優しい言葉で 信じたい嘘で
無茶苦茶に口唇を塞いで

ってところも、自分で書いてるのに
なんか見てはいけないめっちゃエロい大人の世界を覗いてるようで
書いててドキドキした。
信じたい嘘、って、矛盾してて怖い。

だけど泡沫好きって女の人は多いから
やっぱそういうことなのかなあ。
どうなのかなあ?

泡沫というタイトルも儚くて切なくて好き。
きっとこの男はあっけなく
何事もなかったように捨てられるんだな、と。

総じて、とても好きな曲です。
まあなんといってもやっぱりカッコイイ曲だなと思う。