AT0M,  LUNKHEAD曲解説ブログ

ラブ・ソング

恥ずかしい話なんだけど
子供が産まれた時
正直なところ、ちゃんと愛せるのか不安だった。
自分が人の親としてちゃんとやっていけるのか不安で
現実味がないというか、どこか他人事というか
そう思ってしまう自分に嫌悪して
そういう気持ちを胸の奥に押し込んだまま
幸せなふりをして笑っていた。
おしめを変えてお風呂に入れて
抱っこ紐で抱っこしながら散歩をした。

産まれて2か月くらいかなあ
新生児は3時間サイクルで寝る起きる泣くミルク飲む寝るを繰り返すから
当然寝不足になる。
けど、不思議なものでこっちも体がだんだんそのサイクルに慣れてくる。
(ちなみにこれは夜泣きとは言わない。1~2歳頃の自我が芽生えてきて、眠りに落ちる感覚が死を連想させて怖くて泣いてしまうのが夜泣きだそうです。)
その晩、いつものように子供が起きて泣いた。
3時ぐらいだったろうか。
全身で泣いている赤ん坊を見て
今、この子は生きるためだけに生きているんだなあ
全身全霊で生きようとしているんだなあ
と、ふと思った。
こんな力がこの小さな体のどこから湧くのか不思議なくらい
顔を真っ赤にしてものすごい声で泣く。
いつか、この子もいろんなことで悩んで苦しんで
生きているのも嫌になる日が来るかもしれない
そんな時が来たら、君はこんなにも
体全部で、生きたい!生きたい!って泣いてたんだよって
伝えたいと思った。
そしたら俺も涙がぼろぼろと溢れてきて
二人して声をあげて泣いた。
責任ばかりを気負いすぎていたのかもしれない。
もちろん育てていく責任はあるのだけど
親と子であってもどっちが上とか下とかじゃなく
教えあって支えあって生きていくんだ。
こっちだって親としては産まれたてだから
迷うし悩むしくじけるし失敗もする。
だから教えあって支えあって生きていくんだ。
一緒に生きていくってそういうことなんだ。
あの晩から世界のすべてが変わった。

そうやってできたのがラブ・ソングだった。
ラブ・ソングというタイトルは歌詞を書いてる時から決めていた。
最終兵器彼女という漫画の中に
ラブ・ソングという物語の鍵になる言葉が出てきて
その物語内のラブ・ソングがどんなメロディでどんな歌詞かはわからないんだけど
最終兵器彼女の中でとにかく、そのラブ・ソングはとても大事なもので
いつか、自分にもそういう曲ができたら
ラブ・ソングっていうタイトルをつけたい、とずっと思っていた。
これはもう、この曲しかないな、と思った。

ラブ・ソングは2008年の初夏ぐらいからライブでやっていたんだけど
ライブでやってくうちにアレンジも構成も歌詞もどんどん変わっていった。
なんとなく、メンバー的にもボビー的にもこの曲は
(俺の個人的心情ではあるけども)特別に感じていて
大事に育てていきたい、という思いがあったと思う。

この時はまだ表現を濁していて
「大事なものができました」
とMCで言ってから曲を演奏していた。
この頃はまだライブで紙のアンケートを配っていたので
中には
小高さん、彼女できたんですね!おめでとうございます!!
みたいなことを書く人もいた。
(そういうのはだいたい若い男の子だった)

AT0Mで言えば
泥日もそうだし呼吸もそうだし
子供のことを歌った曲がどんどん増えていって
人気商売なので結婚や子供のことは隠すバンドマンが多いけど
こんなに子供の曲が増えていくのに
それを隠しているのはどうなんだろう?と思うようになってしまった。
自分の大事なものを隠して生きていくのは寂しいことだなと思ってしまった。
だってそれが曲になっちゃてるんだもの。
龍もボビーも、言った方がいいと言ってくれた。
それで離れる人がいたら、その人は最初からLUNKHEADのファンじゃないと言ってくれた。

そういうこともあって
2009年3月の新木場STUDIO COASTの空前絶後のみかん祭の前日に
ブログでいよいよ発表してしまった。
そんな土壇場だったから
当然、そのみかん祭は結構ざわざわとしちゃって
1年近く前からずっとライブでラブ・ソングをやり続けてきたので
この暗転の後ラブ・ソングが来る!みたいなのはお客さんもわかっていたと思う。
まさにラブ・ソングの前の暗転
客席もシーンと静まり返ってる緊張感の中
「赤ちゃんオメデトー!!!」
と言ったお客さんがいた。
客席真ん中の柵のあたり、やや山下くん寄りだったと思う。
本当に祝福したくて言ってくれたのかもしれないけど
こういう時のこういうのって腫れ物に触るっていうか
ちょっとタブーなところあるじゃないですか?
しかも今からその曲をやるっていうのに。
余計に会場内静まり返ってめちゃくちゃピリついて
俺も、余計なことしてくれたなあと正直思っちゃって
ここはスルーしとこうと思ったんだけど

ここで思わぬハプニングが
なぜか山下くんが手を挙げてそれに応えたのだった。
俺も龍も悟も「は?おまえじゃねーよ」ってびっくりしたし
言った子も「は?おまえじゃねーよ」と思っただろうし
会場にいた全員が「は?おまえじゃねーよ」と思ったことだろう。
あとで聞いたら、赤ちゃんという言葉が聞き取れてなくて
結成10周年に対してのおめでとうだと勘違いしたらしい。

とにもかくにも山下くんのすっとぼけのおかげで
ピリついた空気がいなされてほんわかした。
ナイスハプニングだった。

この後どんどん、echoとかゲノムとかうちにかえろうとか
子供に向けた曲ができまくっていくので
まあ、言ってよかったなあと思う。
それまで毎週のように事務所に届いてた結構な数のファンレターが
1通も来なくなったけど。
でも逆を言うと、そういう人たちを騙したままにならなくてよかった。

ラブ・ソングはレコーディングの時に
ボビーの提案でプロデューサーをつけることになった。
お願いしたのはStereo Fabrication of Youthの江口さんなんだけど
江口さんは本当にすごい人で
音楽のセンスも才能も技術も知識もずば抜けてるし
めちゃくちゃ頭が良い。
ステファブには東京でバンド始めてから本当にお世話になったし
江口さんには育ててもらった。
江口さんに出会えてなかったら俺らどうなってたかわからないほど
いろんなことを教えてもらった。
最近はプロデューサーや作家業の方が多いみたい。
cinema staffもプロデュースしてる曲があるそうで。
で、江口さんを交えてのレコーディング
何から何までいつもの感じとまるで違って
言われるままにやるんだけど自分が今何やってるのかよく分からない。
ただ、ああしたいこうしたいというと
瞬時に理解してじゃあこうしようとアイデアを出してくる。
歌録りも
いつもは頭から終わりまでつるっと歌っていたのが
1番のAメロだけ、Bメロだけと分けて録るという。
そんなことしたら生々しさがなくならないですか?
嘘っぽくならないですか?
と言ったら、バカお前そういう方がいい時もあるんだよ、と。
Aメロが囁く感じでサビが声を張る曲だと
AメロならAメロだけをその声量に合わせたゲインで録った方がより繊細な音に録れるし
より繊細な表現ができるんだと。
確かに、俺なんかの歌唱力だと
AメロならAメロだけで何度も歌った方が
こういう風に歌いたいってのがやりやすい。
ただ、部分部分で歌うよりつるっと歌う方が潔くてかっこいいじゃないですか。
いいものを作るために、そういうしょうもないプライドを捨てるプライド
そういうのを教えて貰った。
最終的に立ち会いミックスの時
江口さんはめちゃくちゃ褒めてくれて
これお前が歌ったんだよ?すごくない?と言ってくれた。
俺も、俺ってこんな風に歌えたんだなと思った。
江口さんにプロデュースしてもらったのはラブ・ソング1曲だったけど
この体験は俺らにとって革命で
レコーディングに対する考え方がまるで変わった。
ある意味、それ以降のLUNKHEADすべてをプロデュースしてもらったと言っても
過言ではないかもしれない。

いろんな意味で
俺らにとってターニングポイントになった曲だと思う。

(Vo.G.小高芳太朗)