LUNKHEAD曲解説ブログ,  アルバム,  孵化

ペルソナ

ペルソナは
龍が曲を作ってきたんだけど
それがまたすごい作り方、というか
伝え方?なんていうんだろうか
自宅でテレコで録ってきたアコギの弾き語り、というか
フフ~ンみたいなやつなんだけど
なんともよくわからん
キーは?と聞いてもよくわからん
どうもアコギの弦を5、6年は替えてなかったらしく
しかもチューニングも適当だという
とにかく龍の歌うキーでは俺が低すぎるため
なんとか拾ったコードとメロディを自分の歌いやすい高さに直した。
そしたら、龍が
「それそれ!」という。
たまたま自分が弾いたコードのポジションが、俺が直したキーのコード(メジャーE)と同じだったと。
2音くらい低かったんじゃないだろうか…
レギュラーチューニングから2音も低いと弦がダルダルになる。
むしろよく弾けたな…
で、それをスタジオでみんなで合わせるんだけど
サビはまだしも、Aメロがこれまたよく分からない。
メロディもあるようでないようで
龍の中ではイメージがあるみたいだったので
「これ?これ??」「んーちょっと違う」
「これ?こう??」「それ!!」
みたいな…
これまたみんなで手探りで進めていくしかなかった。
サビは龍的にはWANDSのシークレットナイトみたいな感じにしたかったそうで
確かに言われてみるとシンコペーションとかコード進行とか似ている。
やーほんと
あの最初にデモを聴かせてもらった日を思い出すと
化けたなあ、、と思う。
アレンジ超かっこいいよなー
キャッチーなサビに対して不穏なリフとAメロがとてもかっこよい。
このころはみんなしてレッチリとかブラーとかにハマってたから
わざとリフとかAメロはスカスカのペラペラな音にしたがる傾向にあった。

なんでこれ俺が歌詞を書くことになったんだっけかなあ。
孵化を作る中で龍の曲は羽根もあったから
2曲はしんどいって話になったのかもなあ。
曲がちょっとヘンテコだったから
歌詞もちょっと攻めてみたんだけど
龍はすごい喜んでくれて
サビの「笑ったフリなんかしなくたって」
の字余り感をとても気に入ってくれた。

これ、サビにもアーウーのハモりが盛大に入っていて
(3度とか5度とかで主線に沿って当てた歌詞付きのコーラスを通称字ハモ、主線に関係なくパッドぽく当てたコーラスをアーウーと呼ぶ)
豪華なんだよなあ。

いや本当にかっこいい曲になった。

そして大事件が起きた。

それはレコーディングが終わって
立会いミックスの日だった。

ミックス作業というのは
エンジニアさんが
俺らのこういう曲にしたい、あそこはこんな感じにしたいっていう要望をもとに
1曲にほとんど1日かけて行う。
それを俺らが最終的に立ち会ってみんなで聴いて
ボーカルもうちょっと大きくしてもらっていいですか?
とか
ギターソロもうちょっと大きくしてもらっていいですか?
とか
微調整するのが立会いミックスなわけです。
料理で言うと、塩っ気もうちょっと…とか
胡椒もうちょっとパンチあっても…
ソースもう少し多めでもいいかな…的な。

で、ペルソナの立会いミックスの日
いざ、聴いた後にボビーが言い出した。
「うーん、ちょっとこういう感じじゃないんですよねー」
佐藤さんも職人気質なので
場の空気は一変にピリッと凍りついた。

そこからのボビーと佐藤さんの
社会人としての笑顔とタテマエのグローブをつけてのノーガード殴り合いを
俺は一生忘れないだろう(壮も悟も龍も、覚えてるのだろうか)
めっちゃヒヤヒヤした…

プロのミックス作業というのは
俺らのような素人が適当に野菜と肉を切って炒めただけの料理のような
適当にコンプかけてボリューム調整してなんていう
なんちゃっての仕事ではない。
一流のシェフがひとつひとつの食材をその食材が最高の状態になるよう下ごしらえし
それをひとつの皿に完成させていくように
ひとつひとつの音、パートを1日かけてそれぞれ下処理し
(専門的すぎてこれどうやってるんですか?って聞いて、説明してもらっても全然分からない)
それをひとつの曲として完成させていく。

ボビーが言ったのは、目の前に出された料理に対して
「うーん、食べたい料理これじゃないんですよねー」
と言っているに等しかったのだ。

そりゃ半日かけて下処理した素材がムダになるんだったら腹立つだろうし
なんなら立会いミックス日をリスケしなくてはならなくなる。
けどボビーは社会人的タテマエの笑顔で
「でもちょっとこれじゃないんですよねー」
を譲らなかった。
俺らは、もう本当に、肝を冷やした。
俺らの作品なんだけどね。。
そして佐藤さんは颯爽と言った。
「2時間待ってください」

そして鬼のスピードで(元々めちゃくちゃ作業が早い)
本当に2時間でまったく新しく、ゼロから作りあげてしまった。

元のもかっこよかったけど
元はもっと広い感じだった。全体的に。
新しくなったのは
リフやAメロのペラペラな部分がより狭くいなたくなって
ラリパッパな感じと退廃的な感じが強くなったと思う。
そのおかげでアルバムを通して聴いた時のペルソナの毒気が増した気がする。

結果的に、よかったけど
佐藤さんだからなんとかしてくれただけで
普通だったらありえん、だったらお前先に言っとけや
ミックス前になんも言いよらんかったげや。
それ後だしジャンケンじゃげや
と思った。俺は。ボビーに。

本当に、ミックス前の意思疎通は大事だな、と
肝に銘じた曲であります。

ペルソナってタイトルは
多分、龍がつけたんじゃないかなあ?

ユングの言葉で
人間が普段かぶっている「仮面」て意味なんだけど
仮面なんて取っちまえよ、的な歌詞にぴったりなんだけど
当時は、なんかゲームのイメージが強かったんだよな。。

(Vo.G.小高芳太朗)