ENTRANCE 〜BEST OF LUNKHEAD age18-27〜,  LUNKHEAD曲解説ブログ,  アルバム,  月と手のひら

月光少年

地図をリリースした後も、未だ俺は携帯の着メロ機能を駆使してデモを作っていた。
それを見かねて、ディレクターのナベさんが
シーケンサーを経費で買ってくれた。
3万くらいする、たいそういいやつだった。
シーケンサーとは
ざっくり言うと打ち込みで曲が作れるマシーンである(ざっくりー)
そんなものも今ではiphoneのアプリでまかなえてしまう凄い時代になってしまった…

ある日、ビクターの会議室でミーティングがあって
その時ボビーが
こんな曲作ってよ!!
と、Pearl Jamの曲を2つ聴かせてきた。
1曲はなんだか失念してしまったけど
くるくると回転するようなリフが印象的だった。
もう1曲はAliveだった。
Aliveは俺らでいう僕と樹みたいな曲らしい。
その日家に帰って
曲を作って
買ってもらったシーケンサーを使って曲を打ち込んだ。
次の日また打ち合わせがあったので
そこでみんなに聴かせた。
ビクタースタジオの1階のロビーだった。
ボビーは感動していた。
「俺が言ったこと全部入ってんじゃん!」
と興奮していた。
それが
月光少年だった。

全体的に印象的なあのリフが
間奏でフックになっているのがミソだ。
間奏は壮のフレーズに加えて
俺が上でハモってくる。
4/8拍子のまま。
だけど
リズム隊は
6/8拍子で4回繰り返した後に4/8に戻る。
なのでリズム隊とギターがスリップしたように聴こえるんだけど
どちらも32拍なので最後にみんなが合う。
聴いてるとちょっとだけ不思議な感じがするけど
難しく聴こえすぎず
ノリが悪くならないギリギリのところが
気に入ってる。

Pearl Jamの恩恵で
やっぱりくるくる回転するようなリフが
なんだか自転車を漕いでるみたいで
小学生の頃を思い出した。
当時、6速式のギア変換ができる自転車が
少年達の間で大ブームだった。
サドルからハンドルにかけてのフレームのところにゴツい変速機があるやつ。
小学4年の時ぐらいにやっと買ってもらえた。
愛機だ。メカだ。マシーンだ。
もう俺は無敵だと思った。

少年達は怖いもの知らずで
危ないことをなんでもやる。
度胸試し
毎日がチキンレースだ。
(俺石食えるぜ〜と、石を食ってるやつもいた…
当時はスゲェ〜と思ってたが…あれ…やせ我慢だな…)
俺もたくさんケガをした。
いつだか、大人になってから
母に
よく生きてたよね…
と、ボソっと言われたことがある。
本当にそう思う。
自転車で溝にハマって空中を一回転したこととか
何度もあった……
でも無敵だと思ってた。

俺らはこぞって手放し運転を競った。
漕ぎだすのはなかなか大変だけど
いったん漕ぎ出せばカーブでも坂でも手放しで漕げるようになった。
あの無敵感。
月にすら手が届くような。
あの頃、俺らは魔法が使えた。
いつからか、その魔法は弱くなってしまったけど
(これは、未来を願ってしまったに続く)

そんなことを思い出して歌詞を書いた。
そして、バリバリに中原中也臭がヒドい…

レコーディング中にタイトルの話になり
ディレクターのナベさんは
月光ってよくない?
と言った。
俺は
少年がいいと思うんですよね〜
と言った。

そしたらもう、月光少年じゃね!?
と、なったことは至極自然な流れだった…
なんか、月光仮面みたいな感じもあって
いいよねえ!?みたいな。

月光少年
いいタイトルだなあ。
青春よりも思春期よりも前で
好きな子に告白することもできずに
(そんなことをすれば小さなコミュニティの中で大炎上して、恰好のネタにされたろう)
だいたい男女が公然と想いあうことさえ
非現実な年頃だったので
ただ密やかに恋心を募らせていたあの頃。

俺の初恋は
カナガワアヤコさんという人だった。
小さくておとなしくて
とてもかわいかった。
想いを伝えられないまま
小4で転校した。

それから会うことはなかった。
小学生にとって、転校って
絶望的な断絶だった。

(Vo.G.小高芳太朗)