LUNKHEAD曲解説ブログ,  地図

金木犀

あれは2001年の晩夏だった。
俺と龍はバイクで江ノ島の海岸に来ていた。
ツーリングとも言えないぐらいの距離だった。
そしてまたバイクで東京に戻り
つばきのライブを観に行った。
西荻ターニングだった気がする。
そこでつばきが
新曲です、と
月の夜にいつもの川を演った。
月の夜にいつもの川には
山路風という歌詞が出てくる。
山路風は愛媛特有の
四国山脈から吹き下ろしてくる突風の事だ。
椎名林檎大好きな龍は
そういう地元の地名とかが出てくる曲が大好きなので
お前も愛媛のこと歌詞にしたら?
と言ってきた。
そして作った。
金木犀を。

何度も話してきたので知ってる人も多いかもだけど
俺は高校時代、みゆきちゃんと付き合っていた。
みゆきちゃんちは中萩にあって
俺は星越町に住んでいて
その間には金子山があった。
彼女を家まで送って帰る、というのが
当時、男女が付き合うということの定義だったので俺は毎日みゆきちゃんちまで一緒に帰った。
同じ弓道部で部活後に一緒に帰るとみゆきちゃんちから自分ちに帰る時には日が暮れている。
そこから家に帰るには
金子山を迂回するルートと
金子山の山道をヒーヒー言いながら登るコースとあった。
夜の山道は街灯もなく暗くて不気味で
しかもそれどころじゃなくキツかった。
すぐに汗が吹き出て学ランを脱いで自転車のカゴに投げ入れる。
息があがる。全身が悲鳴をあげる。
そしてゼーゼー言いながら山頂を超えると
目の前には一面に新居浜の夜景と燧灘(ひうちなだ)が広がる。
沿岸の工場地帯のまばゆい光は本当に綺麗で
その景色を見るために俺は毎日毎日自転車を漕いだ。
体育の持久走のタイムは中学サッカー部時代より速くなった。
9月、町中が金木犀の匂いで満ちて
10月の太鼓祭りに向けて公民館からは太鼓を練習している音が聞こえた。
春になったら俺は東京に行く。
やっとこの狭いショボい世界を捨てられる。
やっと本当の自分が始まる気がした。

LUNKHEADは自分でもコードネームがよくわからないヘンテコな俺コードが多いんだけど金木犀は珍しく
普通にC→G→Dm→Fの繰り返しで
壮に
え、普通でええの?
と言われた。
ほんとにええの?ほんとに?ええの?
と壮はやたら嬉しそうだった。

未だに気持ちが入る曲で
年に何回かはライブでやるけど
やっぱり新居浜で歌う金木犀は特別で。

あの頃見ていた景色を
抱えた感情を
昨日のことのように
鮮明に思い出す。

そして、なにもないしょぼくれた町と思っていた新居浜に
実はすべてがあったと知った
東京での日々も。

(Vo.G.小高芳太朗)