その間5メートル
イントロのコード進行が
最初はシンプルにD/F# Gの繰り返しだったんだけど
スタジオでアレンジを練ってる時に壮が思いついたフレーズでなんか一気にオリエンタルな感じになった。
で、壮がローポジションで弾いてるので
俺は音がぶつからないようにハイポジションでフレーズを考えたため
なぜか俺のほうがメインテーマ的な事になってる。(こういう曲がたまにある。ショコラとかもそう)
結果、誰も和音を弾いてないので
コードがよくわからない…
謎コード
コードという概念がないクラシック的な解釈になってしまった。
8分の6拍子なんだけど(通称略してハチロクという)
当時、ハチロクのリズムの曲は僕と樹という絶対王者がいたので
俺はハチロク恐怖症にかかっていた。
なんとかハチロクの曲を作ろうと思いつつも
僕と樹には及ばない…
と何曲もボツにしていた。
そんな中で僕と樹に続く2曲目のハチロク曲が
この、その間5メートルだった。
2003年の夏かな?
歌詞は、やはり当時住んでいた上井草のその日見て聞いて感じて思い出した事をただ吐露しただけなんだけど
俺はすごくこの歌詞が好きだ。
今見ても好き、というか
戦慄すら覚える。
書いたの自分だけど。
夕立やんで土の匂い
水溜りをひとつ飛び越える
子供らの声は遠くても
雨上がりの空気にはよく響く
あぁ 風も少し涼しくなってきた
あんくらいの頃僕は息を切らして
雲も追い越そうとしていた
自分の非力さも広い世界も知らなかったから
そういえば今日は一言も声を出してないことに気づいて
急に不安になって僕はなんとなしに声を出してみる
あー
ちゃんと声は出た
ほっとした
ばかみたいだ
切れる息の音や
心臓の音や
吹きぬく風や
べたつく肌や
ふたりでそっと
胸に誓った未来のことや
傷つけたことや
傷ついたことや
耳を塞いだあの日のことや
忘れたはずの色んなことを急に僕は
僕は思い出した
上井草の駅から家までの間にキャベツ畑があって
その横を通って俺は家に帰っていた。
夕方だったけど夏なので東の空はまだ青かった。
雨が上がって
アスファルトには水たまりができていた。
子供達のはしゃぐ声が聞こえた。
おそらく
キャベツ畑の反対側の家の裏にあった公園からだろう。
あのくらいの頃
俺は新居浜の王子アパートという
鉄筋4階建ての3号棟の3階に住んでいて
世界のすべてがその団地の敷地内だった。
秘密基地が団地の縁の下と木の上と敷地内の空き地の中と3つあった。
今も鮮明に覚えているんだけど
3号棟の向かいには各家庭ごとの物置があった。
その間を俺は走っていた。
なぜ、走っても走っても雲を追い越せないのだろうか、と本気で思っていた。
遠くなれば小さく見えるなんてことすらわかってなかった。
あの雲が何百メートルも何千メートルも向こうにあるだなんて事も。
(物心ついてからの記憶、3歳くらい?からの事はほとんどすべて覚えている、というと結構珍しがられるけど、むしろ最近の、そして大事な事(ツアーに行く時の集合場所とか)のほうが忘れやすくて困る…)
そして時が経って俺はキャベツ畑の横を歩いていた。
その頃、何日も人に会わない事がよくあった。
気づくと、丸一日、一切声を出してない事もよくあった。
俺は思わず
あー
と声に出した。
まどろみから覚めたみたいに
急に自分が自分に戻ってきた感覚だった。
その時
雲を追い越せない事が不思議だったあの日から
今、キャベツ畑の横を歩いている自分
その間の時間が、16年ぐらいの時間が
一瞬でフラッシュバックして
頭の中を駆け巡った。
水たまりを飛び越えてから
そこに至るまでが
5メートルの距離だった
というわけです。
(Vo.G.小高芳太朗)