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プリズム

白い声が出来て
地図を出す前にもう1枚シングルを切る必要があった。
江藤さんという、俺らを気に入ってくれたビクターのかなり偉い人が、東京にてが何故かめちゃくちゃ好きで
権利を買い取ってまで
2枚目は東京にてがいいと言ってくれてたんだけど
(権利ってものはとてもややこしく、めんどくさいもので、一回リリースしてしまうと原盤権というものが発生して、契約にもよるけど作った自分ですら自由には扱えなくなるのです)
やっぱり新曲で勝負したい!!という俺らの気持ちを汲んでくれて
それでプリズムを書き下ろした。
曲の出だしは、まんま…ナンバーガールの透明少女ですね…はい…
この曲からDr.StrangeLoveの根岸孝旨さんにプロデュースをお願いした思い出深い曲です。
根岸さんはベーシストとしても超一流で
奥田民生、ラブサイケデリコ、あとたくさん
凄い人達とセッションしてるし
もうめちゃくちゃ売れっ子のプロデューサーで
根岸さんと言えばcoccoがまず代表的だけど
くるり、グレイプバイン、エレカシ等々…
そうそうたる人達をプロデュースしてたので
めちゃくちゃ恐れ多かったけど
本当にこんな俺らを好いて
俺らの才能を信じてくれて
未だに公私ともにお世話になってて
こないだあった時は
おまえらが売れなかったのは俺のせいだ〜
とか冗談言ってたけど
根岸さんに出会えてなかったら
俺らもっとヒサンな結末を迎えていたと思う。
恩人です。
プロデュースと言ってもいろいろあって
最初はやっぱり抵抗があった。
ああしろこうしろといじられるのはイヤだなあ…と思っていた。
もちろん、そういうプロデューサーもいるし
それ前提でお願いするケースもあるし
けど根岸さんのプロデュースって
なんていうのかな
精神論というか、根性論というか
悟空がカリン様のところで超仙水を飲むために鬼ごっこしてたら強くなってた的な
だから、アレンジをああしろこうしろとか全然言ってこない。
判断基準はかっこいいかかっこよくないか
それだけ。
メンバー間で迷ってたらそっと手を添えて起動を修正してくれる感じ。
「レコーディングで色目使って背伸びしてどうするんだ
ライブで出来る事しかやるな
ヘタクソでもなんでも今のおまえらを記録するのがレコーディングだろ」
みたいな事を言われて目からウロコだった。
上手っぽく見せるのがレコーディングだと思ってた。
根岸さんは俺らの体幹を鍛え上げてくれた。
ライブとレコーディングは別物だと思ってたけど
そうじゃないことを教えてくれた。
例えば、みんな大好きREACTとREACT2は
ほぼライブと同じようにレコーディングしてるけど
あれも、根岸さんに出会えてなかったらきっとできなかったことで。
当時は俺らヘタクソだったから
根岸さんに自分達の力のなさを教えてもらって
悔しかったけど霧が晴れた。
そこからライブも意識が変わった。

根岸さんは高い楽器をいっぱい持ってて
俺プロデューサーじゃなくて楽器レンタル業だから笑
と自分で言うくらいたくさん楽器を持ってきてくれて
プリズムの幕開けの俺の音は根岸さんの65年のジャズマスターです。
悟もビンテージのジャズベ借りてたのかな?
アンプも超いいやつで
フェンダーのバイブロキングだったかな?
マッチレスだったかな?
とにかくそれでビンテージギターというものに超憧れて
そこからゆくゆく4本も買う事になるのを
その時の俺は知らない。

MVは白い声と同じく二十里さん
近い雰囲気でありつつも
白い声のモノトーンな感じから一転
カラフルなイメージで
白い声から開けた感じがある。
プリズムってタイトルの通りなイメージ。
なのでそれぞれのソロカットもカラフルに演出されてるんだけど
悟のソロカットが
CAUTION KEEP OUT(注意!立入禁止!)
って書かれた黄色いテープなのが
個人的にはウケる。
あとこの頃壮がレスポールからストラトにちょっと浮気してて
MVでもストラトを弾いてる。

プリズムってタイトルは
やっぱりミックスダウンの待ち時間で
みんなでウンウン唸って生まれた。
ボビーが読んでたnumberの広告ページに載ってたのかな?何かのキャッチコピーで。
歌詞にはあまり関係がないけど

今日という日を
心で笑って泣いて生きていよう
いちいち季節や天気を気にしていよう

ってところとか
ひとつの白い光がいろんな色になるプリズムぽいよな!みたいな
そういうのは後付けなんだけどとにかく
この曲のタイトルはプリズムだったんだ!
みたいな光が降ってくるような妙な感覚が満場一致であった。

信じるってどういうことだろう?
と思ってた。そのころ。

信じるってことはなんの根拠も
なんの理由もない証拠もないことだから
信じるってことはつまりそれは
それでも信じたいということだ

って、歌詞がこの曲の骨だと思う。
信じるってことには実体がない。
だから信じるってことは
その根拠も理由も証拠も
自分で作り上げなきゃいけない。
それでも信じたいと思うのなら。

歌詞も気に入ってるんだよな。

けどプリズムは白い声ほど評価されず
そんなにウケもよくなくて次第にライブでもやらなくなり
1枚目のベストアルバム「ENTRANCE」にも収録されなかった。
シングル曲なのに。

だけど時間が経って
何年か前からやたらと盛り上がるようになった。
多分、ライブが変わったからだと思う。
プリズムが始まる時、
ギターのフィードバックの中
俺と壮が探り合うように目を合わせる。
そして壮がギターをミュートした瞬間
俺がギャギャギャギャと弾きだす。
あの感じがやってて楽しい。
俺らが楽しいのがきっとお客さんにも伝わってるんだと思うんだなあ。
REACTに収録されてから余計に盛り上がるようになった。

こうやって長い時間の果てに
曲が開花していったりするのが
バンドを続けていく醍醐味でもある。

ベストアルバムに収録すらされなかった
残念なシングル曲が
今こうやってあんなに盛り上がるようになるなんて
あの頃思ってもなかった。
不思議だナァ…

(Vo.G.小高芳太朗)