小高Blog

星が輝いていた

手を離したものって
どれくらいあるんだろう?
いろんなことを諦めてきたけど
全部拾い集めたらどれくらい重いのだろう?

私1人が居なくなっても
この世界は何も変わらない。
何人かの人が泣いてくれて
それもいつかは忘れられていく。

『今日あなたが無駄に過ごした1日は、
昨日死んだ人がどうしても生きたかった1日だ』

っていう有名な言葉があるけれど
あれが反吐が出るほどに嫌いだ。

誰かの人生なんて知ったことか。
私の1日は私だけのものだ。

腕の傷は血は止まったけど
傷は少しまだ生々しい。

なんのために生きているんだろう?
私の生きたかった人生ってなんだろう?
死ねないからただ生きているけど
それってなんの意味があるんだろう?

ヤミはいつでもそばにいてくれた。
ちょっと心配そうに、だけど普通に。
ヤミとだったら私も普通の少女でいられる気がした。

多分きっと今日も眠れないんだろうな。
23時か…
きっとヤミは連絡したら
嫌そうにしながらでもつきあってくれるんだろうな…
もう寝てるかもしれないけど
「今からちょっと会えない?」
試しに連絡してみたらすぐに返事が返ってきた。
「いいよ」

小さい頃2人でよく遊んだ公園で落ち合った。
もう夜中で寒いとは言っても
そんなに着込む?と笑っちゃうくらいのモコモコでヤミは現れた。
「厚着すぎない?笑」
「俺が寒がりなの知ってるだろ」

「で、なんの用事?」
用事なんて何もなかった。
ただヤミに会いたかった。

よく晴れていて
キンと冷えた夜だった。
滑り台の手すりは氷のように冷たくて
手に張り付くかと思ったけど
いつぶりかの滑り台はちょっとワクワクした。
私は体が華奢な方だけど子供用の滑り台はやっぱりもう
少し小さくて
滑り終わった後に尻餅を着いてしまった。
「イタタタ…」
それ見たことか…とヤミが見下ろしていたので
「ちょっと、レディが倒れてんのよ?
 手を貸してよね」
と言ったらヤミは。やれやれ…と言った顔で手を差し伸べてきた。
ポケットにずっと入れていたせいか
ヤミの手はとてもあったかくて
なんだかとてもホッとした。

だけどその瞬間に腕に巻いた包帯が見えてしまった。
「おまえ…また…」
「なに?関係ないでしょ!」

ヤミは絶対に私を否定しない。
どんな私でも常に受け入れてきてくれた。
腕を切ろうがなにをしようが。
受け入れてくれるけど
逆を言うと必要以上に近寄ってもこない。

だけどヤミは突然私の腕を引いて抱きしめてきた。
あまりに突然すぎる展開に私は少し焦ってしまった。
だけどもモコモコのヤミの服を伝って温もりが私の中に入ってきた時
なんだかとても心地よかった。

「ねえ、知ってる?」
私は独り言のようにポツポツと呟いた。
「4分息を止めてたら、大体の人間って意識を失って
 そのまま死んじゃうんだって。
 たった4分だよ?今流行ってる曲をさ
 息を止めて聴いてたら死ねちゃうんだよ?
 それってすごく不思議だと思わない?
 こんなに死にたい人が世の中に溢れていて
 でも死ねない人が溢れていて
 なのにそんなに簡単に死ねちゃうなんてさ。」

ヤミの体の震えが伝わってきた。
泣いているようだった。

ヤミは絞り出すように言った。
「なんにもなくてもいいから
 何者でもなくていいから
 頑張って幸せになんてならなくていいから
 ただ、ただ生きていてほしい
 無責任かもしれないけど
 俺はおまえに生きていてほしいんだよ」

『頑張って幸せになんてならなくていい』
そう言ってくれるヤミが嬉しかった。
私はヤミの背中に腕を回した。
見上げた空には
星が輝いていた。